三線を練習していると、ある時ふと、
「自分の歌は、なぜか素人っぽく聞こえる」
と感じることがあります。
音程が大きく外れているわけではない。
工工四もある程度見られる。
三線も止まらずに弾ける。
それでも、先生や民謡の上手な方が歌うものとは、何かが違って聞こえる。
この「何か」が、なかなか言葉にできません。
声量なのか。
声質なのか。
こぶしなのか。
節回しなのか。
沖縄民謡には、独特の歌い方があります。歌の上がり下がりや、音を揺らすような表現、言葉の置き方、息の使い方など、細かく見ていけば、さまざまな要素があります。
けれども、三線を始めたばかりの頃に、そのすべてを理解しようとすると、かえって難しく感じてしまいます。
「もっと民謡らしく歌いたい!」
と思ってみても、では具体的に何をどう変えればよいのか?と考えると分からなくなります。
私自身も、歌唱法について難しい説明を受けたからといって、すぐに実践できるわけではありません。師匠から「〇〇法を使いなさい」と言われたことも、ほとんどありませんでした。だからこそ、自分で考えながら歌うほかありませんでした。
しかし、歌を聴いて、頭では分かったつもりでも、声に出すと元に戻ってしまいます。
そこで色々と考えてみたのですが、初心者の方でも始めやすい方法が一つあります。
それは、まず目標にしている音源をよく聴き、その歌にできるだけ近づける。真似をすることが一番シンプルで分かりやすいと思いました。
上手な人の歌と、自分の歌は何が違うのか
先生や上手な方の歌を聴くと、音がただ真っすぐに並んでいるわけではありません。
上がるところでは、しっかりと上がる。
下がるところでは、自然に下がる。
伸ばす音にも、途中でわずかな変化がある。
言葉の入り方や終わり方にも特徴がある。
ところが、初心者さんの歌を聴いていくと、こうした細かな歌の上がり下がり、音の動きが少なくなりがちだなぁと感じてしまいます。
工工四の音を追いかけることに一生懸命になり、一つひとつの歌声が平らに聞こえてしまうことがあります。
もちろん、最初はそれでOKです。
まずは音程を覚え、歌詞を覚え、三線と一緒に歌えるようになることが大切です。
ただ、そこからもう一段階上を目指すなら、音程が合っているだけではなく、歌そのものの動きを知る必要がある――そうコンクールを受験するたびに感じます。
また、コンクール受験生を支える裏方の手伝いをしていて気づくのは、歌の上手な方ほど、歌の中の上がり下がりや感情のこもった節回しを細かく歌い分けていることです。
本当に上手で、感心してしまいます。師匠の歌をしっかりと真似しているんだなぁと思います。「真似をする」という言葉に、少し悪い印象を持つ方もいるかもしれませんが…。
初心者のうちは、上手な人の歌を真似ることは、とても大切な練習だと私は思います。
英語の発音と少し似ている
真似をすると聞いて、僕が思い出すのが英語の発音練習です。
英語の単語をカタカナの感覚だけで発音すると、自分では言えているつもりでも、相手には伝わりにくいことがあります。
そんな時、ネイティブの人がどこを強く発音しているのか、音がどのようにつながっているのかをよく聴き、そのまま真似てみます。
「アップル」なのか「えぇっぽー」なのか?
口の動かし方や、息の出し方まで近づけていくと、少しずつ英語らしい発音になっていきますね😁
沖縄民謡も、似ているところがあるんじゃないかと思います。沖縄方言なんてまさに外国語なんだし💦
沖縄民謡を日本語の歌だと考えると、難しく感じてしまうかもしれません。けれど、外国の歌だと思えば、真似することへの抵抗感も少なくなります。先生が言葉をどこで伸ばしているのか、どの音から少しずつ上がっているのか、どこで息を抜いているのか、語尾をどのように収めているのか――そこに耳を傾けてみてください。
これらを聴き取り、真似るだけで雰囲気は違ってくると思います。最初は不自然な感じが出ても構いません。
何度も真似ているうちに、その曲らしい歌い方が少しずつ身体に入ってきます。
「曲を知る」とは、最後まで歌えることだけではない
曲を知っているというと、
「歌詞を覚えている」
「工工四を見ずに弾ける」
「最初から最後まで歌える」
ということを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それも大切なことです。
もう少し深く考えると、「曲を知る」とは、その曲の全体像をつかみ、表現することでもあると思います。たとえば、その背景や歴史、情景を、聴く人に思い浮かべてもらえるかどうかも大切です。
音源を何度も聴き、「どんな感情が込められているのだろう」「作者は何を伝えたかったのだろう」と思いを巡らせることで、歌に深みが生まれると考えています。この「曲を知る」という作業が、感情を入れることにつながり、素人っぽさを抜いていくための一歩になるのではないかと思います。
三線を始めたばかりの頃は、弾くことに精いっぱいです。右手を動かし、左手で勘所を探し、歌詞を追いかけます。
ですから、歌の細かなニュアンスや「情け」まで気を配れなくても当然です。
少しずつ三線に慣れてきたら、今度は音源を聴きながら、
「自分の歌と、どこが違うのだろう」
と比べてみてください。それだけでも、練習の質が変わります。
音源にシンクロするように歌ってみる
上手になりたいと思ったら、一度、自分の歌い方を捨てて、目標にしている人の歌にシンクロするつもりで歌ってみるのもよいと思います。
久高友吉さんの個別指導の動画でも伝えていますが、先生の歌にシンクロするように歌うということは上達への近道だと強く思います。
録音した先生の歌を聞きながら、一緒に歌う。声の上がり下がりに注意を向けて声を合わせます。歌い始めるタイミング、言葉を伸ばす長さも、できるだけ合わせます。そして息を切る場所や、次の言葉に入る間も真似してみます。
すべてを完璧に合わせる必要はありません。
まずは、先生の歌から大きく外れないようについていくだけでもよいのです。
可能であれば、録音した先生の音源をイヤホンで聴きながら一緒に歌い、自分の声を録音してみてください。
録音を後から聴くと、
「ここは早く歌い始めている」
「この音が上がり切っていない」
「語尾が短くなっている」
など、自分では気づかなかった違いが見つかります。
少し恥ずかしく感じるかもしれませんが、録音はとてもよい気づきのチャンスとなります。
全部できない時は、サビだけでもよい
一曲すべてを細かく真似しようとすると、時間がかかりますよね💦
仕事や家事をしながら三線を練習している方にとっては、毎日長い時間を確保するのは本当に難しいです。
僕も二人の子供の世話をしながらコンクール受験をこなしてきましたが、本当に時間が足りず苦戦した記憶があります。
そんな時は、曲の中で一番印象に残る部分だけでも構いません。
サビの部分。
最も高い音が出てくる部分。
歌い出し。
最後の締めくくり。
まずは一か所だけ選び、目標の音源と聴き比べながら真似てみてください。
一曲全部が変わらなくても、印象に残る部分の歌い方が変わるだけで、歌全体の印象が大きく変わることがあります。
特に人前で歌う時は、聴く人の心に残りやすい部分があります。
そこだけでも丁寧に歌えると、
「前より民謡らしく聞こえる」
「歌に表情が出てきた」
と感じてもらえるかもしれません。
自分らしさは、真似た後からでも遅くない
どうせ歌うなら「自分らしく歌いたい!」という気持ちは、とても大切です。
先生とまったく同じ声になる必要はありません。声の高さも、声質も、息の長さも、人それぞれ違います。
けれども、最初から自分らしさだけを求めると、その曲が本来持っている形から離れてしまうことがあります。
まずは、師匠や目標にしている方の歌をよく聴く。そして、できるだけ真似る。
何度も繰り返し、曲の動きを身体に入れる。その後で、自分の声や自分の感じ方が少しずつ加わっていけばよいのではないでしょうか。
書道でも、最初はお手本を見ながら書きます。型を覚えた後に、その人らしい字が出てきます。三線や民謡の歌も、それと似ているのかもしれません。
真似ることは、自分らしさを消すことではありません。自分らしい歌を育てるための、土台づくりです。
まず一つの音源を決めてみる
音源を聴き比べていると、同じ曲でも人によって歌い方が違います。

いろいろな方の歌を聴くことは勉強になりますが、初心者のうちは、誰を真似ればよいのか分からなくなることもあります。皆さん、それぞれに工夫を凝らして歌われているので。
なので、まずは、一つの音源を決めましょう。
できれば、普段指導を受けている先生や師匠の音源がよいと思います。教室で習っている歌い方と、普段聴いている音源が大きく違うと、混乱してしまうからです。
一つの音源を繰り返し聴き、歌の上がり下がりや言葉の置き方を覚えていく。
それだけでも、歌は少しずつ変わっていきます。
難しい歌唱法の名前が分からなくても構いません。
「ここで少し上がっている」
「この言葉を長く伸ばしている」
「最後は力を抜いている」
そのような気づきが一つ増えるたびに、その曲への理解も深まっていきます。
三線の歌が素人っぽく聞こえると感じた時は、声を大きく出すことや、難しい技法を増やすことだけを考えなくてもよいと思います。
まずは、曲をよく知ること。
目標にしている人の歌をよく聴くこと。
そして、少しだけ真似てみること。
時間がなければ、サビの部分だけでも構いません。
昨日より一か所、音源に近づく。
その小さな積み重ねが、少しずつ歌の印象を変えてくれるのだと思います。